#4 リーハは不運な魔法使い
更新日:1月26日
トイレはあった! 先輩もいた! でも……
その後、僕は何とか一人でトイレを見つけ出すことに成功した。ああ良かった……。用を足した後、僕は手を洗い、ついでに額の部分も洗った。
それから持ってきたハンカチで水を拭き拭き、来た道を忍び足で戻ろうとした。のだが。
ちょうど進もうとした廊下の奥から、新入生歓迎パーティーの時にスリザリンのテーブルにいたゴースト……それも、他のどんなゴースト達よりも一番容姿がおどろおどろしくて不気味だった、「血まみれ男爵」がゆらゆらとやって来るのが見えた。
僕はギョッとして思わず右手に伸びている廊下の方へ逃げ込み、さらに、「もしかしたら血まみれ男爵が後をついて来るかも」とパニックになったので、幾つもの廊下の角をめちゃくちゃに曲がって走った。
気づくと僕はホグワーツの広い玄関ホールにいた。弱った事に、ホールの中ではどんなに音を潜めようとしても「カンカン」とこの足音が大きく響いてこだましてしまう。
僕はホールの隅っこで一人、途方にくれて立ちすくんだ。
困ったな……。変な場所に迷い込んだわけではないからまだ良いけど、ここから寮に行く道なんて分かんないよ。それに、こうしてフラフラしている所を先生達に見つかったら、やっぱり怒られちゃうかな。困ったな……。それで退学処分になったりしたらどうしよう……。
その時だった。不意に僕の目の前を、見覚えのある赤と黄色のローブがさっと横切った。
僕は思わず目を見張る。黒い髪に赤い瞳をした背の高いその人は、間違いない、寮の部屋からいなくなっていたシャーロックさんだったのだ。
僕はすぐに声をかけようとした……が、言葉を発しようとしたその時、ホグワーツの玄関扉がギィーッと遠慮がちに細く開き、誰かが姿を現した。
僕は慌てて口をつぐみ、ホールに何本も立っていた柱の影に身を隠して様子を伺った。
玄関からホグワーツに入って来た人は、頭に紫色のターバンを巻き、茶色のスーツに身を包んだ、クィレル先生だった。危ない、危ない……。
確かクィレル先生は、今年初めてホグワーツにやってきた新しい先生だ。今年から「闇の魔術に対する防衛術」を担当するのだと、パーティーの時にそんな説明があった。
あれ、でも、どうしてこんな時間に外に出ていたんだろう……?
一方、シャーロックさんの方は、クィレル先生が現れてもホールの真ん中に堂々と立ったまま、隠れようともしなかった。それどころか、端正な顔に笑みまで浮かべて、クィレル先生が自分に気づくのを待っているようだった。
うわぁ……どうする気なの、シャーロックさん……!
僕が柱の影でハラハラしているうち、ついにクィレル先生がシャーロックさんに気付いた。
「お、お、おや?」クィレル先生はどもりながら甲高い声を上げた。
「な、何故こんな時間に、せ、生徒の君が、こ、こにいるんです? こ、校則違反ですよ?」
ほらぁ、やっぱり……!
僕は背筋が冷える思いだったけど、シャーロックさんは慌てもせず、悪びれもせず、ただにこやかに答えた。
「それは申し訳ありません。でも、どうしても先生にお聞きしたい事があったものですから」
「い、い、一体、何です?」
「いえ、別に大した事ではないのですが。ただ、このホグワーツの『闇の魔術に対する防衛術』の教師である貴方が、何故頭に例の魔法使い崩れを飼われているのかを、知りたくて」
はい? 今、何て?
クィレル先生が、れ、例のあの人を頭に飼ってる? 意味わかんないんですけど?
クィレル先生は「なななななな」と声を上げ怒った。
「ば、馬鹿な事をい、言うのはやめなさい! きょ、教師を冒涜した罰に、グ、グリフィンドールから30点減t」
ところが先生がそう言い終わらない内に、「隠れしものよ現れよ」と、どこからか呪文を唱える声が聞こえ、火花を散らしながら緑の閃光が走った。
それはホールの中を先生目掛けてまっしぐらに進み、ターバンに当たると花火のように弾けて一層強い光を放った。すると……ターバンはまるで生き物のように先生の頭上でうねり、バラバラと勝手に解けていったのだ。
「ああああ!!」
クィレル先生は狼狽して手を振り回し、ターバンを掴もうとしたけど、魔法の力には勝てなかった。すぐに布は解け切って床に落ち、クィレル先生の頭部があらわになった。
僕はそれを見て、ギョッとした。
もう少しで、パーティーで食べたものを吐いてしまうところだった。それくらい奇怪でグロテスクだったんだ……まさかクィレル先生の後頭部に、もう一つ顔があるなんて!
「ほら、嘘をついたって無駄ですよ。シャーロックの言う通り、貴方の頭にはヴォルデモードがくっついているじゃないですか」
いつの間に現れたのだろうか、クィレル先生に向けて顕現の魔法を使った白銀の髪のロビンさんは、シャーロックさんのすぐ後ろに立って、やっぱりニコニコと笑っていた。
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