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執筆者の写真Fata.シャーロック

【3】Oh! Crazy Halloween!




◆独裁者の言うことには


 「そうだよ。だからどんな事件が起こったとしても、ただ同情したり激情したりして、何かを強引に進めては駄目なんだ」とロビンさんは言う。

「冷静になってよく考えなきゃ。決まりを一つ変えるなら、必ず弱点をカバーする決まりを作らないとね」

「だが、世論を誘導すれば」ホームズさんはガラスの灰皿に煙草の吸い殻を落とした。

「大抵その辺の議論は吹っ飛ぶ。楽だよな」

「そうそう」とロビンさんが相槌を打つ。

「事件そのものに隠された意味はなくとも、『事件が起こった』ってことを報道し続ければ、国民は自然とそればかり見るようになるからね。その間にするりと決められることもあるよ。まるでマジシャンの両手だ。派手に動く手で皆の視線を引き付けて、地味な方の手で手品の肝をやる」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってください……!」


 僕は思わず立ち上がって、叫んだ。


「それって、インタビュー番組とか事件とかが、世論を誘導するために作られたお芝居だってこともあるってことですか?!」

「全部が全部そうではないと思うけどね」


 ロビンさんはそう言うけれど、そんなの絶対ありえない。


「い、いや、それはないでしょう!」ピシャリ、僕は撥ねつけた。


 だって、そんなの酷すぎる。もしそれが本当だとしたら、僕ら視聴者側の人権はどうなるんだ? 馬鹿にされるにもほどがある。ありえないよ!


「ロビンさんたちは、ニホンの新幹線の事件も、人を誘導するための事件だったって言うんですか?! く、クライシ、何でしたっけ、その人がそこにいたかも知れないからって?! それこそデマでしょう!!」

「どうしてデマだって言い切れるんだい? 君はその場にいたわけじゃないのに」

「ロビンさんも、どうしてデマじゃないなんて言い切れるんですか? 貴方もその場にはいなかったでしょう!」

「そうだね」


 ロビンさんがアッサリ認めたので、僕はちょっと拍子抜けした。


「で、ですよね」

「うん」ロビンさんはにこやかに頷いた。

「確かに僕はその場にいなかった。シャーロックも君も、その場にはいなかった。だから本当に大変なことが起こったのか、それともお芝居だったのかは分からない。そうだね?」

「ええ……」

「じゃあさ、この場合は『分からないね』で良いんじゃないかな。決めつけは一番良くないよ」

「え、だってニュースが……まさか、公然と嘘はつかないでしょう!」

「何処の記者も医者も政治家も銀行家も、所詮は俺たちと同じ人間だぞ、ハリー」


 ホームズさんが静かに言った。


「愛や真実を何より大事と考える人間もいれば、金や上司の命令が一番と思う奴もいる。生まれつき嘘や殺しが好きな奴もいる。俺に言わせれば、どんなお偉い肩書きを持つ人間も、そこらのYouTuberと同じくらい怪しいぜ。

家族でも友人でもない人間の言うこと・することを、そう簡単には信用するな。まずは疑え。金の動きを追ってみろ。そして自分の目で見、耳で聞き、地頭で考えたことだけを大切にすることだ」

「かの独裁者ヒトラーもこういう言葉を残してるからね。『大衆は小さな嘘より大きな嘘に騙されやすい』と」


 ロビンさんは僕の瞳を覗き込むようにして、ゆっくりと言った。


「マフィン君が思うよりも、世界は黒いところかも」





 ええ、嫌だなそんなの……。僕はガッカリうなだれる。


「じゃあ、僕はどうしたらいいんですか。本当のことって、どうしたら分かるんですか?」

「お前さんが自分で探すしかない。真実が公然と張り出されていることなど少ないからな」とホームズさんは言った。

「TVや新聞を見る、GoogleやSafariで検索する、それは結構だが、それらは限られた情報しか流さないか、海賊版漫画サイトを検索から除外するのと同じように、違法あるいは反社会的と見なしたサイトを閲覧出来ぬようにしている。だから俺は、情報統制のあまり行われていないTwitterやブログサイト内でキーワードを検索し、手当たり次第に読むことを勧める。いいか、世界はコインと同じだ。表があれば裏がある。出来るだけ多くの立場の意見に当たり、思い込みを捨てて総合的に判断しろ。間違っても情報を鵜呑みにはするな。俺やロビンの意見にも頼るな。何が真実かを探ることは、お前さんの人生そのものを探ることにもなる」

「は、はい……」僕はごくりと唾を呑み込み、頷いた。


 なるほどと思う。確かに僕はロボットじゃない。見たり聞いたりしたそのままを受け取れば良いとは思わないな。ロビンさんの話はやっぱりデマだよって気が拭えないけれど、そう思うなら自分でももっと調べて考えるべきだね。


 まあそれを横に置いて考えてみても、僕はどうも「皆はこのことについてどう思ってるんだろう」「皆はこう思っているみたいだ。きっとそうなんだろう」なんて、知らず知らずのうちに他人の顔色を伺っていた気がする。これって同調圧力とか言うやつかな。何をどう思うかは誰だって自由なはずなのに。


「俺も事件調査にあたる時は、自分も含めて全ての関係者を疑うことにしている。固定観念や常識ほど役に立たないものはない」

「なるほど……。でも、どうして自分まで疑うんですか?」

 ホームズさんは天井を見つめながら、灰色の煙を吐き出した。

「俺は煙草がなくなると、カッとなって暴れるらしい。記憶は無いが」


 こわ!! 


 僕はギョッとして腰を浮かせた。事件調査の時に自分を疑うほどって、一体どんな暴れ方してるんだ。怖すぎるぞおい! こんな人と同居するなんて嫌なんだけど!!

 とりあえず、僕は両手を合わせてホームズさんにお願いした。「どうかずっと吸っていてください」と。

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